MONDO(モンド)ポスター事業継続のステートメント解説

オルタナティブポスター情報

はい、先週末のMONDOのポスター事業に関する報道(FUNKOの業績不振により、全従業員の10%をレイオフ(解雇)。その中にはMONDO(モンド)のブレーンであり、共同創業者のRob Jones氏、 Mitch Putnam氏やシニアクリエイティブディレクターのEric Garza氏、多数のMONDOスタッフが含まれており、ポスター部門は廃止へ)に端を発する、お家騒動について、FUNKO CEOのBrian Mariotti氏からステートメントが出ました。

ポスター事業は継続されるものの、やはりこれまでとは異なる方向へ舵を切るようです。
私見を交えた解説ですが、よろしくお付き合いください。

FUNKO CEO、Brian Mariotti氏のステートメントの要点

【1】FUNKO全体で約10%の人員削減を行ったが、レイオフ(解雇)の大半はMONDOではない。

【2】MONDOのポスターのビジネスは今後も継続する。

【3】150枚以下の極端に少ない枚数のポスターを作ることは、ファンへのアクセスを不当に制限することになる。

【4】MONDOのポスターは、現在活躍している最も素晴らしいアーティストたちによって制作されている。

【5】より多くのファンがこの世界的なポップカルチャー・アートの表現に参加できるよう、ポスターの印刷数を増やす。限定版ではあるが”超”限定版ではない。

【6】ポスターのモチーフ(版権)の範囲をテレビ番組、スポーツ、アニメ、音楽などに広げる。

【7】近い将来、レコードの生産に大きく投資する予定。

【8】サンディエゴに約7万平方メートルのレコードプレス工場とレコード店、そしてライブハウスが融合したイベントスペースを作る。

【9】上記イベントスペースには、約370平方メートルのMONDO専用アートギャラリーを併設する。

【10】最も素晴らしいライセンス(版権)に多大な投資を行っている。
これらのライセンスはFUNKOが買収するまでは財政的な制約から実現できなかった夢のライセンスである。

【11】MONDOに可能な限りのサポートを提供することを100%約束する。

ん~、ツッコミどころ満載ですね(笑)。
Daniel Danger氏が怒り狂ってます。そりゃそうだ。

これまでのMONDOは本当に終了のようです。
では、気になる点をいくつか書き出していきましょう。

“150枚以下の極端に少ない枚数のポスター“はほんの一部

ここMONDOが制作するポスターのエディション数(印刷枚数)は250~350枚程度がほとんど。
これは実際に購入している人ならわかることでしょう。
※一昨年のIFC Filmsコラボでは95~145枚のポスターもありましたが、すべてのポスターが完売するわけではないため、モチーフによって枚数の調整をするのは普通のことだと思います。

バリアントはレギュラーの半数以下で作られることが多いので、150枚以下の作品も多くありますが、あくまでもレギュラーあってのバリアント。希少性がウリなので売れるからといって印刷枚数を増やすことはブランドイメージを損なうことにも繋がります。

MONDOの魅力が「比較的購入しやすい価格帯かつ、限定版のクールなコレクタブル商品」であることをFUNKOの経営陣はどこまで理解しているのでしょうか。

“超”限定版ではない限定版とは

人気のポスターは1分足らずで売り切れるMONDOですが、FUNKOの経営陣が言うところの「”超”限定版」から「限定版」へシフトするそうです。ようするに印刷枚数を増やすってことですね。
かねてから国籍問わず、SNSで「全て受注生産にすればいい」とか言ってた皆様、おめでとうございます。
きっとニッコリしていることでしょう。
しかし、それはスクリーンプリントでは当面不可能です(後述)。

「限定版」が具体的に何枚なのか、それはリリースが出るまでわかりませんが
目安としてはVICE PRESSのリプロダクトシリーズ『EDITIONS』が参考になると思います。
https://vice-press.com/collections/editions-movie-posters-art-prints
※リンク先は3月31日で一旦、販売終了するとのことです。

完売したポスターをオリジナルの24 x 36インチからA2サイズにリサイズし、『Fine-Art Pigment Print』で印刷したものです。
『Fine-Art Pigment Print』とは、平たく言うと『美術品レベルのインクを使ったインクジェットプリント、またはジクレー』です。
『EDITIONS』のリプロダクトは用紙、印刷形態全て同じで、印刷部数は検討の結果、1000部となっています。
売り切れている商品もあるので、ある程度の需要はあるのでしょう。

以前から言ってますが、オルタナティブポスターのコレクター市場は約1000人位の規模。
ある程度の数印刷して在庫を残さないようにするには、この枚数が適正ということだと思います。
それでも上場企業FUNKOが求める売上には足りないと思いますが。

スクリーンプリント以外の手法の積極的導入

スクリーンプリントの需要が印刷所のキャパシティを超えていることは、MONDOの納期が4~6ヶ月程度かかることや、いくつかのアートハウスではスクリーンプリント以外の技法(ジクレーやリトグラフ)を併用していることでわかります。
FUNKOが考える「限定版」を実現するには、今でも需要に応えきれていないスクリーンプリントでは現実的に難しく、それ以外の手法を選択するしかありません。

Daniel Danger氏も呟いてますが、スクリーンプリントは設備投資をすればすぐに増産出来るものではありません。
昔よりも自動化はされているとはいえ、職人の経験値に頼る部分も多く、数千単位の印刷を同じクオリティで仕上げるには、それなりの修行期間が必要です。
スクリーンプリントにこだわるならば、お金の力で工場を作ることも職人を引き抜くことも出来ると思いますが、FUNKOは自ら印刷屋になる覚悟でもあるのでしょうか。
普通に考えれば、スクリーンプリントとは異なりますが、美術印刷でも主流のジクレーやリトグラフに切り替える方が理にかなっています。

個人的にMONDOの最高峰のポスターのひとつ、Tula Lotay氏による『お嬢さん』。
このポスターは10色超えのインクで複雑なトーンを表現していますが、このような凝った作品にはもうお目にかかれない運命にあるのかもしれません。

the handmaiden
『お嬢さん』
THE HANDMAIDEN

by Tula Lotay
24″x36″ , 175部

MONDOのポスターのロマンのひとつに、「多色刷りのスクリーンプリントにおける色分解の挑戦」があります。アーチストの意図に沿った色、質感を出すためにインク数を増やして微妙な表現を追求するわけですが、微細な表現なら版ズレのリスクがほぼないジクレーの方が有利との見方もあり、個人的には仕上がりが良ければどちらでもアリです。

ポスターのモチーフが映画以外(テレビ番組、スポーツ、アニメ、音楽など)にも

テレビドラマ、ゲーム、アニメ、これらは既にMONDOが手がけていることなので、特に新鮮味はありません。
これまでの代表作を見てみましょう。

『コブラ会』
COBRA KAI

by Matt Ryan Tobin
24″ x 36″ , 175枚『サイバーパンク2077』レギュラー
CYBERPUNK 2077 Regular
by Phantom City Creative

24″ x 36″
250枚『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』フォイルバリアント
GHOST IN THE SHELL Foil Variant

by Martin Ansin
24″ x 36″
325枚

映画と地続きとも言える、テレビドラマ、ゲーム、アニメはまだわかりますが、ミュージシャンやスポーツをモチーフにしてアートポスターを作ることは、MONDOがやるべきことなのでしょうか。
私見ですが、FUNKOがライセンスを取得している版権すべてがポスター化の対象なのだと思います。
さっと書き出してみると……。
Marvel、DC Comics、WWE、Lucasfilm、Sony Pictures Entertainment、Paramount Pictures、 DreamWorks、Hasbro、CBS、Fox、Warner Bros、Disney、HBO、Peanuts、BBC、 NFL、Ubisoft、NBCUniversal、Cartoon Network、2K Games、Bethesda Games
いや~いっぱいありますね(汗)。

FUNKOが目指す『MONDOポスター』ブランドとは

ひとことで言えば、いつでもどこでも買えるポスターにするということなのでしょう。
極端にいうとこのような感じ。

引用元:ヴィレッジヴァンガード twitter

MONDOのクールなポスターをオフセット印刷で大量生産!
安価に世界中のポップカルチャー・ファンにお届け!
……もはやMONDOである必然性はありませんが、大企業が求めるポスター販売の理想的な姿だと思います。
(これが悪い姿とは思いませんが、自分がオルタナティブポスターに求めるものとは異なります)
最終的にオフセット印刷で大量生産するためにスクリーンプリントやジクレー、リトグラフで限定先行販売、ウケが良いものはオフセットへ……なんてこともありそうです。
ここまで来れば過去の伝説的なオルタナティブポスターのオフセット化も何のためらいもなくやるでしょう。

上場企業が事業を買収すれば、売上を極限まで追求するのは当たり前。
サブカルの聖地・サンディエゴに作るというギャラリーもMONDOのブランド価値を高めるためのものです。アーチストやポスター制作に関わる人々、そして我々ファンの想いは二の次です。

FUNKOも『MONDOのポスターは最も素晴らしいアーティストたちによって制作されている』ことは理解しているようですが、アーチストを育て、支えた重要なスタッフを解雇したこの先のビジョンがまったく見えません。
とりあえず今日はこのへんで。

また続報出たら更新します。
それでは~。

図録的な画集「THE ART OF MONDO」&「MONDO 映画ポスターアート集」

最後になりますが、2017年に発売されたMONDOのアートポスターをまとめた画集「THE ART OF MONDO」、並びにその日本語版「MONDO 映画ポスターアート集」を紹介しておきます。
『MONDO 映画ポスターアートの最前線』の図録は発行されていませんが、入場時にもらえる豪華な冊子と合わせてご覧いただけると理解がより深まると思います。
※日本版は絶版状態、原著は少数ながら版を重ねているようです。
下の解説にも書いてますが、原著の方が判型も大きく、厚手の紙を使っているのでより満足感が高いと思います。



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